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人手不足で人を増やす前に。AIに寄せる業務の決め方

人手不足をAIで埋めるとは、足りない人数をそのままAIに置き換えることではなく、いま社内にある業務を「人にしか渡せない」「AIに寄せる」「今はどちらでもない」の3つに仕分け直すことです。求人票より先にこの仕分けを終えると、採用が止まるのではなく、変わるのは採用要件のほうになります。
僕はAIVESTという会社を経営しながら、自分でも手を動かして、人を増やさずに業務を回す仕組みを作っています。この記事は、人が足りないので求人を出そうとしていて、その前にAIでどこまで吸収できるのか決めきれていない中小企業の経営者に向けて書きます。なお、現場の作業をロボットで置き換える話は扱いません。扱うのは、パソコンの上で完結する業務です。
2026年9月時点で「AI 人手不足」を検索すると、上位に並ぶのは人手不足の統計と原因、AI活用のメリット、他社の解消事例、そして「目的を明確に、小さく始めて、効果を測る」という進め方です。どれも間違ってはいません。ただ、自社のどの業務を人に残し、どれをAIに寄せるかを決める順番は、どこにも書かれていません。そこを埋めます。
人手不足をAIで埋める前に、業務を3つに仕分ける
仕分け先は3つです。人かAIかの2つではありません。
人にしか渡せない: 責任を取る判断、値決め、採用と評価、謝罪と交渉。AIに下書きさせても、決めるのは人です
AIに寄せる: 手順が毎回ほぼ同じで、成果物がファイルとして残り、間違えても取り返しがつく業務
今はどちらでもない: 判断が混ざる業務、社外に出せない情報を含む業務。期限を切って保留にします
3列目を持つかどうかで結果が変わります。人かAIかの二分法にすると、迷った業務が結局すべてAI側に流れ込むからです。決めきれないものは「決めきれない」と書いて置いておくほうが、あとで安全に戻せます。
仕分けの単位は、部署名ではなく作業名
「経理」「営業事務」のままでは仕分けられません。「請求書の突合」「見積書のたたき台作成」「問い合わせメールの一次返信」まで割ると、初めて人かAIかを判定できます。部署名で仕分けようとして手が止まる会社は、業務の切り方が粗いだけで、AIに向いていないわけではありません。
今いる社員を育てる計画とは分けて考える
同じ3つの仕分けは、今いる社員の育成計画にも使えます。ただし目的が違います。この記事が扱うのは求人を出す前に業務の置き場所を決める工程で、決めたあとに誰をどこまで育てるかはAI人材育成の計画の作り方に分けてあります。

求人票を先に書くと、何が起きるのか
求人票は、業務の輪郭が決まっていなくても書けてしまいます。「営業事務 若干名」で出せます。ここが落とし穴です。
採用が先に決まると、入社した人の手が先に空きます。空いた手を埋めるために、いま誰かがやっている作業をそのまま引き継ぎ、その瞬間にその作業は「人がやる業務」として固定されます。担当者がついた業務をあとからAIに寄せ直すのは、感情の問題も絡んで難しくなります。求人票を先に書くと、仕分けの機会が一度失われます。
「人が足りない」には2種類ある
人が足りないという言葉には、作業時間が足りない場合と、判断できる人が足りない場合の2つが混ざっています。この2つは打ち手が正反対です。
作業時間の不足なら、増やす先は人だけではありません。AIに寄せれば時間は空きます。一方、判断できる人の不足は、AIを何本入れても埋まりません。決裁も謝罪も代われないからです。求人を出す前に、自社がどちらなのかを言葉にしておくと、それだけで求人票の中身が変わります。
僕の会社が人に残した仕事と、機械に寄せた仕事
うちは人を増やす代わりに、毎朝と毎時に自動で立ち上がるジョブに業務を寄せてきました。2026年9月10日時点で、自社用に登録している常駐ジョブは47本です(自社の設定ファイルを数えた実測値)。同じことを人数で解こうとしていたら、今の体制では成り立っていません。
機械に寄せたのは、収集・照合・記帳・検査
寄せた工程は4種類に集約されます。
収集: 決まった場所から材料を取ってくる
照合: 取ってきたものを既存の記録と突き合わせ、重複を落とす
記帳: 結果を追記して残す
検査: 決めた基準を満たしているかを機械的に判定する
この4つに共通するのは、同じ入力なら何度やり直しても同じ結果になることです。専門的には冪等(べきとう)と呼びますが、経営側の言葉に直すと「途中で失敗しても、もう一度頭から流せば済む」という性質です。だから深夜に落ちていても、朝もう一度走らせるだけで復帰します。
失敗の記録は監査証跡。削除禁止・追記のみ。
これは自社の運用スクリプトの先頭に、僕がコメントとして書いている一行です。失敗を消さないと決めておくと、あとから「いつから壊れていたか」を人の記憶に頼らずに追えます。
人に残したのは、判定と承認の1クリック
逆に、人の側に残した工程はごく短いものです。機械が作った成果物を、通すか戻すかを判定すること。本番へ反映してよいかを承認すること。この2つだけです。
自社のブログ運用でも、下書きづくりから検品までは自動で進みますが、公開済みの記事を書き換えて本番へ反映するかどうかは、既定で「準備完了を通知して、人の承認を待つ」形にしています。承認の操作そのものは1クリックで終わります。人の時間を使うのは作業ではなく判定のほうだ、と決めているからです。
もう1つ人に残したのが、書いてよい内容かどうかの線引きです。実際に体験していない話を体験として書かない、という判断は機械には任せられません。ここは最後まで人の仕事として置いています。
業務を3つに仕分ける手順
紙とペンで1時間あれば終わります。ツールの検討はこのあとです。
部署単位ではなく作業単位で、実際に手を動かしたものだけを並べます。想像で理想の業務フローを書かないことが大事です
各作業に「判断の重さ」と「戻し方」を軽・中・重の3段階で付けます。所要時間はまだ見ません
採点の結果をそのまま3列に振り分けます。迷ったものは必ず保留列に置きます。人かAIかに無理やり寄せません
保留列の各行に「次に見る日」を書きます。日付の無い保留は、半年後には忘れられて存在しなくなります
3の段階で、AI列に入る業務が想像より少なくても構いません。最初のAI列は1行あれば十分です。1行を回してから、次の見直しで増やせます。
仕分けの基準は工数ではない。「判断の重さ」と「戻し方」の2軸
いちばん多い失敗が、時間のかかっている業務から順にAIに寄せることです。工数の大きい業務ほど、効果も大きく見えるからです。
ところが工数と判断の重さは相関しません。時間がかかっている業務の中身が、実は値決めや与信の判断だったということが普通に起きます。工数だけで選ぶと、重い判断を含む業務ほど「効果が大きいから」という理由でAI側に落ちます。事故はここから始まります。
軸1: 判断の重さ
その業務で間違えたとき、誰が責任を取るかで測ります。決裁、値決め、人の評価、社外への謝罪が含まれていれば重いほうです。逆に、答えが既存の記録の中にあり、照らし合わせれば決まるものは軽いほうです。
軸2: 戻し方
間違いに気づいたとき、取り消せるかどうかで測ります。社内のファイルなら作り直せます。送信済みのメール、振り込み済みの支払い、公開済みの告知は戻せません。戻せない業務は、工数が小さくても人が最終の一手を持ちます。
2軸を組み合わせると置き場所が決まります。
判断が軽く、戻せる: AIに寄せる。最初の1行はここから選びます
判断が重く、戻せない: 人にしか渡せない。下書きすら渡さない業務もここです
判断が軽く、戻せない: 保留。人の最終確認を1手挟める形にできたらAI列へ動かします
判断が重く、戻せる: 保留。たたき台の作成だけをAIに渡し、判断は人が持ちます
工数はどこで使うのかというと、AI列に入った業務の着手順を決めるときです。寄せてよいかは2軸で決め、どれから寄せるかを工数で決めます。順番が逆になると事故ります。

そのまま埋められる仕分け表。自社の業務名を入れて使う
表の欄は6つで足ります。自社の業務名を左端に入れて、そのまま埋めてください。最初の3行が書き方の例、最後の1行が空欄の型です。
業務名 | 判断の重さ | 戻し方 | 置き場所 | 検収者 | 次に見る日 |
|---|---|---|---|---|---|
請求書と入金明細の突合 | 軽 | 戻せる | AIに寄せる | 経理担当 | 固定 |
問い合わせメールの一次返信 | 中 | 戻せない(送信済み) | 保留(下書きまで) | 営業責任者 | 2026-12-01 |
採用面接の合否 | 重 | 戻せない | 人にしか渡せない | 対象外 | 固定 |
(自社の業務名) | 軽・中・重 | 戻せる/条件つき/戻せない | 人/AI/保留 | 氏名 | 日付 |
コツは、判断の重さと戻し方を先に書き、置き場所を最後に書くことです。置き場所から書くと、希望が先に立って採点が甘くなります。検収者の欄は、空けたまま先へ進まないでください。空欄はそのまま次の節の問題になります。
作業の棚卸しから始めたい場合は、AIに任せてよい業務の棚卸しワークシートに記入式の判定表を用意してあります。この記事が判断の2軸と表の埋め方、資料が棚卸しそのものの記入シート、という役割分担です。
AIに寄せた業務は、誰が検収するかを先に決める
AI列に入れた業務は、書き手と検査役を分けます。同じ人、あるいは同じAIが両方をやると、ほぼ確実に通ります。自分が出させたものは、自分では甘く見えるからです。
決めることは3つだけです。
誰が検収するか(担当本人以外であること。上長でも隣の部署でも構いません)
何を見て通すか(合否が言える文で書く。「品質を確認」では判定できません)
差し戻しをどこに残すか(口頭で返すと学習が残りません。1行でよいので記録します)
検査役に渡すのは成果物だけで、経緯は渡しません。経緯を知っていると「事情があるから」で通してしまうからです。合否の基準そのものの作り方はAIの出力を評価する基準の設計にまとめてあります。
ここで検収者を置けない業務が出てきたら、それは重要な発見です。社内に品質を判定できる人がいないという意味なので、その業務はまだAIに寄せられません。同時に、これが次の採用要件のいちばん確かな材料になります。

止まった日の扱いを先に決める。原料がない日は人を呼ばない
AIに寄せた業務は、必ず止まる日が来ます。材料が届かない、外部のサービスが落ちている、条件に合うものが1件も無い。ここで「止まったら人がやる」と決めてしまうと、自動化のはずだった業務が当番制に戻ります。
僕の設計はその逆です。材料が足りない日は、無理に何かを作らずに、そのまま正常終了させます。記録は1行残して、翌朝また動きます。人を呼び出すのは、止まった事実ではなく、止まり方が想定外だったときだけです。
誰も呼ばない条件(材料ゼロ・件数ゼロは正常終了とみなす)、記録の残し方(失敗も追記のみで消さない)、人を呼ぶ条件(同じ失敗が続いたときだけ通知する)。この3つを寄せる前に決めておくと、止まった日に慌てて手を出さずに済みます。
止まり方の設計をもう少し詳しく決めたい場合は、AI自動化のリスク設計で扱っています。この記事では、寄せる前に扱いを決めておく、というところまでにします。
採用は止めない。変わるのは採用要件のほう
ここまで読むと「では採用をやめるのか」と思われるかもしれませんが、逆です。仕分けをすると、人にしか渡せない列がはっきり残ります。そこは人を入れないと回りません。変わるのは採用の可否ではなく、求人票に書く要件のほうです。
書き換えるのは3か所です。
業務欄: 「営業事務全般」ではなく、人にしか渡せない列にある業務名をそのまま書く
求める人物像: 作業が速い人ではなく、成果物の合否を判定できる人。検収者の空欄が埋まる人を採る
入社後の想定: AI列の業務を「運転する人」ではなく「検査する人」として説明する
この3か所を直した求人票は、応募数が増えるとは限りません。ただ、入社後に何を任せるかが最初から一致しているので、渡す業務が決まらないまま数か月が過ぎる状態は避けられます。

仕分けをせずに採ると、入社した人の最初の仕事が「自分の仕事を探すこと」になりがちです。これは本人にも会社にも損で、しかも辞める理由になります。
社内に置かず外に出す選択肢もあります。外注に出すかどうかの判断軸はAI自動化を外注するときの判断に分けてあるので、保留列が長くなったときに読んでください。
半年後に仕分けを見直す。動かす欄と固定する欄
道具は半年で変わります。だからといって表を毎回作り直すと、何も積み上がりません。動かす欄と固定する欄を先に分けておきます。
欄 | 半年後の扱い |
|---|---|
業務名 | 原則固定。業務そのものが無くなったときだけ削除する |
判断の重さ | 原則固定。道具が良くなっても、値決めが軽い判断に変わることはない |
戻し方 | 変わりうる。社外に出る経路や公開の手順が変わったときだけ書き換える |
置き場所 | 動かす欄。特に保留列は、期限が来たら必ず動かすか、期限を延ばす理由を書く |
検収者 | 変えてよい。ただし常に担当とは別人にする |
手段(ツール・サービス) | 自由に変えてよい。ここが半年で変わる前提の欄 |
見直しでやってはいけないのは、うまくいかなかった業務の判断の重さを軽く付け直すことです。それは仕分けではなく、結果に合わせて物差しを曲げる行為になります。動かすのは置き場所のほうです。
寄せた業務が本当に効いたかどうかの測り方は、この記事では扱いません。前後を同じ条件で比べる方法は次の記事にまとめてあります。
関連記事AIの業務効率化、効果をどう測るか。前後比で判断する計測設計AIの業務効率化の効果は、他社の削減率ではなく自社の前後比で判断するものです。測る計器を先に仕込んでから自動化を載せる順序で自社を運用する僕が、beforeの取り方・測れない業務の扱い・判断までの期間を実運用の台帳ごと解説します。自社だけで仕分けを進めるのが難しい場合は、AI顧問で表を一緒に埋めるところから入ることもできます。
よくある質問
解消できるのは、手順が毎回ほぼ同じで、成果物がファイルとして残り、やり直せる業務にかかっている時間です。収集・照合・記帳・検査はここに入ります。できないのは判断そのものを減らすことです。値決め、採用、謝罪、例外対応は人に残ります。「人手不足が解消するか」ではなく「作業時間の不足か、判断できる人の不足か」で答えが変わります。
実際に起きるのは3つです。検収者を置かずに走らせると品質のばらつきが数か月後に表に出ること、止まった日の扱いを決めていないと自動化が当番制に戻ること、工数だけで寄せる業務を選ぶと重い判断を含む業務がAI側に落ちることです。いずれも道具の性能ではなく決め方の問題で、寄せる前に決めておけば避けられます。
事例で見るべきは導入したツール名ではなく、その会社が何を人に残したかです。同じ業種でも、判断の重さと戻し方は会社ごとに違います。当てはめる価値があるのは「業務名・判断の重さ・戻し方・検収者」が読み取れる事例だけで、ツール名と削減率しか書かれていない事例は、自社の表を埋めてから読むほうが安全です。
最初に要るのは業界の統計ではなく、自社の1週間分の作業一覧です。そのうえで見る数字は、1件あたりの所要時間よりも「差し戻しの回数」と「その業務が止まったときに困る人の数」です。差し戻しが多い業務は判断が混ざっている合図で、止まると困る人が多い業務は戻し方を先に決める必要があります。
減るのではなく、列が変わります。収集や照合に使っていた時間はAI列に移り、その人には検査役や検収者の役割が回ります。同時に、人にしか渡せない列の仕事が相対的に増えます。誰にどの列を渡すかを決める順番はAI人材育成の計画の作り方にまとめてあります。
この記事の仕分け表を埋める前段として、自社の業務を洗い出す記入式の無料ワークシートを公開しています。任せてよい業務の3条件(手順が毎回同じ・成果物がファイルで残る・やり直せる)の判定表と、どこまで自動にしてよいかを書き込む欄つきです。求人票を書く前の1時間で、AI列の候補が手元に残ります。
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