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生成AIの著作権リスク対策。公開前に社内で確認する5項目

生成AIの著作権リスクとは、AIで作った文章や画像が既存の著作物に似てしまい、公開したあとに権利侵害を問われる可能性のことです。この記事は法律の解説ではなく、成果物を外に出す前に社内で何を確認するかという運用設計を扱います。
対象読者は、生成AIの成果物を自社のブログ・SNS・広告・資料で使いたい経営者と実務担当者です。僕はAIVESTという会社を経営していて、自社ブログ・X・広告の生成AI制作物をほぼ毎日公開しています。自社ブログだけで2026年8月31日時点で59本。その全部を、これから説明する公開前チェックに通してきました。その現物を手順ごと公開します。
本記事は運用設計の解説であり、法的助言ではありません。個別案件の法的判断は、必ず弁護士など専門家に確認してください。本文中の公的資料・判例は、2026年8月31日時点で僕が原文と一次報道を確認したものです。
生成AIの著作権リスクとは。何がどこで問題になるのか
学習段階と生成・利用段階を分けると、悩みが半分になる
文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」は、AIと著作権の問題を「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2つに分けて整理しています(2026年8月時点でも文化庁の公式ページに現行資料として掲載されています)。
AI開発・学習段階: 他人の著作物をAIの学習データに使ってよいかという問題。日本の著作権法30条の4は、情報解析のように作品を鑑賞して楽しむことを目的としない利用を、原則として許諾なしで認めています(楽しむ目的が併存する場合などは対象外)
生成・利用段階: AIが出力したものを公開・販売してよいかという問題。ここは人間が作ったものと同じ物差しで、通常の著作権侵害として判断されます
学習段階の議論の多くはAIを開発する側の論点です。つまり、生成AIを業務で使う企業にとっての主戦場は生成・利用段階にあります。悩む範囲を先に絞ると、対策は一気に設計しやすくなります。
リスクが現実になるのは「外に出した瞬間」
社内の下書きフォルダに眠っている生成物が問題になる場面は限定的です。リスクが現実になるのは、ブログ・SNS・広告・商品として外に出した瞬間です。そして公開した主体は会社なので、「AIが勝手に作った」は理由になりません。差止め(掲載の停止)や損害賠償を求められる相手は、公開した企業です。
だからこそ対策の焦点は、「AIに何をさせるか」よりも「出す前に何を確認するか」に置くのが合理的です。

侵害を判断する2つの物差し。「依拠性」と「類似性」とは?
依拠性。既存の作品を「元にした」といえるか
依拠性とは、既存の著作物に接して、それを元に作ったといえるかどうかのことです。偶然似てしまっただけなら、著作権侵害にはなりません。
ただし生成AIの場合、この認定が人間の創作と違います。文化庁の考え方では、利用者がその著作物を知っていて似たものを生成させた場合に加えて、その著作物がAIの学習データに含まれていた場合にも、依拠性が認められうると整理されています。「僕は知らなかった」だけでは否定しきれないのが、生成AI特有の怖さです。
類似性。表現の本質的な特徴が似ているか
類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を、そこから直接感じ取れるほど似ているかどうかのことです。
重要なのは、著作権が守るのは「表現」であって「アイデア」ではないことです。作風や画風が似ているだけでは、著作権侵害にはなりません。一方で、特定のキャラクターや特定のイラストと構図・造形まで重なってくると、類似性が認められる方向に近づきます。
実例もすでにあります。2024年2月、中国の広州インターネット法院は、生成AIサービスがウルトラマンに酷似した画像を生成した事件で、サービス事業者の著作権侵害責任を認め、損害賠償1万元などを命じました。日本国外の判決なので日本法の解釈がそのまま決まったわけではありませんが、生成AIの出力が既存キャラクターに似ていれば侵害と認定されうることを示した事例として、僕は社内の説明に使っています。
プロンプトに他社名・作家名を入れてよいのか?
前の節の物差しをプロンプトに当てはめると、答えの構造がはっきりします。
「〇〇(作家名)風のイラスト」「△△(作品名)みたいなキービジュアル」というプロンプトは、依拠性を自分の手で証明してしまう行為です。特定の作品に似せる意図の証拠がプロンプトの記録に残るため、出力が似ていた場合に「偶然です」という説明が成り立たなくなります。
一方で、スタイルの指定がすべて危険というわけではありません。前述のとおり、作風自体は著作権の保護対象ではないからです。ただし業務では、セーフかアウトかを毎回議論する運用はコストが高すぎます。僕は次の線引きを勧めています。
実在の作家名・作品名・キャラクター名を、似せる目的でプロンプトに入れない(社内ルールでは禁止に倒す)
スタイル指定は「水彩風」「フラットデザイン」など一般名詞で行う
プロンプトの記録を残す。指摘を受けたとき、依拠していないことを説明する材料は自分のログしかありません
なお、他社名や実在人物の名前には、商標やパブリシティ権(有名人の名前・肖像が持つ経済的価値を守る権利)といった著作権以外の問題も別レイヤーで存在します。業務では「著作権的にセーフでも入れない」に倒すのが安全です。
公開前に社内で確認する5項目
僕が自社の公開前チェックで使っている確認項目を、どの会社でも使える形に汎用化して5つにまとめます。上から順に確認し、全部通ったものだけを公開します。
使ったAIツールの利用規約で、生成物の商用利用の可否と権利の帰属を確認します。ツールとプランによって条件が違ううえ、規約は改定されます。「いつ・誰が・どの版の規約を確認したか」を記録に残すところまでが確認です。
画像は画像検索で類似を探し、文章は特徴的な言い回しを検索にかけます。完全な検出は不可能ですが、「探したが見つからなかった」という記録が、依拠していないことの説明材料になります。特定のキャラクター・ロゴ・実在人物に似ていたら、その時点で差し戻します。
実在の作家名・作品名・他社名を似せる目的で入れていないか、他者の文章や画像を貼り付けて「これに似せて」と指示していないかを確認します。プロンプトと参照素材の記録は保存します。
他者の統計・調査・主張を下敷きにした部分には出典を明示し、自分のオリジナル部分との線引きを付けます。引用の要件(主従関係・出所明示など)を満たさない転載は、AI以前の問題として侵害です。
出どころを説明できない画像、既存作品との関係を確認しきれない生成物は、公開せずに作り直します。「たぶん大丈夫」は判断ではありません。確認できない要素を削っても、記事や広告は成立します。

この5項目のポイントは、どの項目も「記録を残す」ことまでを含めていることです。指摘を受けたときに会社を守るのは、担当者の感覚ではなく確認の記録です。
僕が毎日回している公開前チェックの実運用
ここからは一般論ではなく、うちの会社の現物です。僕は自社ブログ(2026年8月31日時点で59本公開)とX、広告のクリエイティブを生成AIで制作しています。制作はAIに任せますが、公開前の関門は次の形で固定しています。
出典節の義務化と、未確認の事実を通さない機械検査
他者の思想・調査・数字を下敷きにした記事は、末尾に出典節を置くことを義務にしています。借りた部分と自分の発明部分の線引きを明示するルールで、2026年7月に恒久ルール化しました。下敷きを隠した記事は一時的に賢く見えても、信頼が残らないというのが運用してみての実感です。
あわせて、公開工程には機械検査を入れています。出典のない数字や確認していない主張が本文に残っていると、公開の工程がそこで止まる仕組みです。本文からリンクできる外部ドメインも許可リスト方式で、確認していないサイトへのリンクは機械的に通りません。人の注意力に頼らないのがポイントで、事実面の検証の仕組みは生成AIのハルシネーション対策の記事で詳しく公開しています。
出せる根拠があるものだけを出す。根拠には出典と時点を添える。確認できないものは、削る。
僕の公開前チェックはこの3行に集約されます。5項目は、これを著作権面に分解したものにすぎません。
画像の線引き。他者の著作物を参照画像に使わない
画像生成でいちばん事故に近いのは、参照画像です。参照画像とは「この画像に似せて」とAIに渡すお手本画像のこと。他者のイラストや写真を参照に渡す行為は、依拠性を自分で作りにいくのと同じです。
だからうちでは、参照画像に使ってよいのは自分で作ったテンプレート画像だけと決めています。他者の作品・キャラクター・写真は参照に渡さない。生成後は毎回目視で確認し、既存キャラクターに似た要素が紛れていないかを見ます。

参考にしたい画像を見つけても、参照に渡すのは我慢です。「似せたい」という欲が、著作権事故の入り口なんですよね。
機械ゲートと24時間人間レビューの2段構え
公開の最終関門は2段です。1段目は機械ゲートで、出典・リンク先・記事構造の検査に全部合格しないと、そもそも投稿の工程に進めません。2段目は人間で、公開後24時間以内に僕自身が全件レビューし、問題があれば掲載を止めて直します。
機械が先、人間が後、という順番が肝です。機械検査は疲れないので毎回同じ基準で落とし、人間は機械に判定できない「似ている気がする」の最終判断に集中する。毎日公開する体制は、この分業でしか回りませんでした。ゲートの作り方そのものはAI記事の品質ゲートの記事にまとめています。

社内ルール・ガイドラインに入れる著作権の確認項目
上の実運用を、自社の社内ルールに落とすなら、著作権面で入れるべきは次の4点です。
公開前チェックの手順と担当者(この記事の5項目を自社の業務の言葉に直したもの)
プロンプトの禁止事項(実在の作家名・作品名・他社名を似せる目的で入れない)
参照画像・入力素材の制限(他者の著作物を参照画像に渡さない)
指摘を受けたときの初動と、判断に迷ったときの相談先
入力禁止情報や利用範囲など、著作権以外を含む利用ルール全体の作り方と雛形は、別の記事に分けてまとめています。
関連記事ChatGPT社内ルールの作り方。生成AIガイドライン雛形つきChatGPT社内ルール(生成AIガイドライン)に入れる7項目・作成5ステップ・そのまま使える雛形全文に加え、経産省・総務省・JDLAなど公的ガイドラインの使い分けを、AI顧問の実務目線で解説します。また、ルールは配って終わりではなく、事例と一緒に研修で体感してもらうと定着します。研修の組み立てはAI研修の総合ガイドを参照してください。どこまでAIに任せてどこから人間が確認するかという権限側の設計は、AI自動化のリスク設計の記事に書いています。
著作権の指摘を受けたときの対応順
正直に書くと、うちはこの運用を始めてから著作権の指摘を受けたことはまだありません。それでも初動の手順は先に決めてあります。指摘が来てから考えると、初動を間違えるからです。
まず公開を止める。反論より先に、対象コンテンツを非公開にします。掲載を続けたまま争うと、侵害だった場合の損害が拡大し続けます
事実を確認する。プロンプトの記録・参照素材・類似確認の記録を集め、何をどう作ったかを時系列で整理します
専門家に相談する。侵害かどうかの判断と先方への回答文面は、弁護士に確認してから返します。自社だけで「似ていないので問題ありません」と断定して回答しない
大事なのは、掲載停止は敗北宣言ではないということです。止める判断が早い会社ほど、事実確認と交渉を落ち着いて進められます。そして手順2で差し出せる記録は、まさに公開前の5項目チェックで残してきたものです。
よくある質問
最低限は4つです。公開前チェックの手順と担当、プロンプトの禁止事項、参照画像・入力素材の制限、指摘を受けたときの初動。入力禁止情報や利用範囲を含むルール全体の雛形は、ChatGPT社内ルールの記事で全文公開しています。
まとめ。「確認してから出す」を仕組みにする
生成AIの著作権リスク対策は、法律の勉強を完璧にすることではなく、出す前に確認する工程を社内に固定することです。
企業の主戦場は生成・利用段階。判断の物差しは依拠性と類似性の2つ
プロンプトに実在の作家名・作品名を似せる目的で入れない。記録を残す
公開前の5項目(出どころ・類似・プロンプト・出典・未確認は出さない)を通ったものだけ出す
機械検査を先に、人間の最終判断を後に。指摘を受けたらまず止める
僕自身、この運用で生成AIの制作物を毎日出し続けています。公開前チェックの仕組み作りや社内ルールの整備を自社に合わせて設計したい場合は、お問い合わせから相談してください。
著作権の確認項目を含めて生成AIの利用ルールを整備するなら、そのまま記入して使える「社内AI利用ルール ガイドライン雛形」(全9条・導入5ステップつき)をどうぞ。無料でダウンロードできます。
出典
本記事の公開前チェック5項目と実運用の記述は、僕の会社で実際に回している運用が元です。法制度の整理と判例は、以下を2026年8月31日に確認して引用しました。個別案件の法的判断は専門家に確認してください。
文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
文化庁「AIと著作権について」(「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」2024年7月31日を含む掲載ページ) https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
広州インターネット法院のウルトラマン画像生成をめぐる判決(2024年2月): TMI総合法律事務所の解説 https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2024/15548.html および日本経済新聞の報道 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF160HH0W4A410C2000000/ で確認
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