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AIを配っても使われない会社の共通点とAI活用の推進設計

AI活用の推進とは。配る作業ではなく「使われ方を先に決める設計」
AI活用の推進とは、社員にAIツールを配る作業ではなく、どの業務で・誰が・どの判断に使うのかを配る前に決めておく設計のことです。配って終わりにすると、使う人と使わない人に分かれたまま固定されます。推進の本体は配布ではなく、使われ方の設計側にあります。
この記事はAI推進の専任部署を持たない会社の経営者に向けて書いています。DX推進室やCoE(全社横断の専門組織)を前提にした体制論ではなく、専任を置けない会社が配った後に何をどの順番で決めるかだけを扱います。「AI活用推進法」を調べて来られた方は、後半のよくある質問で一次資料をもとに整理しました。
使ってはいる。ただし組織としては何も変わっていない
総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表・企業向け調査は2026年1〜2月実施、日本の有効回答515社・従業員10名以上)では、自社の何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%でした。活用方針はこう報告されています。
所属する企業における生成AIの活用方針に関し「積極的に活用する方針」「活用する領域を限定して利用する方針」と回答した割合の合計は、日本は他の3か国より低いものの、2025年度調査で68.9%となり、2024年度調査(49.7%)に比べて大きく上昇した。(総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」2026年7月)
一方、同じ調査で業務変革の組織的な取組状況を聞いた設問(日本の回答497件)では、「組織的な取り組みはない」27.0%、「個人の生産性向上に取り組んでいる(業務自体の変革には至っていない)」11.7%、合計38.7%でした。配ることはほぼ終わり、残っているのは使われ方の設計だというのが僕の読みです。
僕はAIVESTという会社を経営しながら、AI研修の講師とAI顧問をやっています。以下の「使われる会社と使われない会社の差」は講師側・顧問側の観察であり、統計ではありません。
AIを配っても使われない会社に共通する4つの型
研修後に現場で使われる会社と、そのまま消えていく会社があります。差がつく理由は技術力ではなく、ほぼ4つの型に収まります。
型1「配って終わり」と型2「上が使わない」
型1は配って終わり。アカウントは全員にあるのに、どの業務で使うかが誰にも割り当てられていません。案内にあるのは使い方のリンクだけで、使う場面が空欄です。人は空欄を自分では埋めません。
型2は上が使わない。経営者と管理職が自分では触らず、現場にだけ活用を求める形です。上司がAIの出力を検証できないまま部下に配ると、提出物は毎回差し戻されます。現場は数回で学習して、使うのをやめます。
型3「個人技」と型4「減点」
型3は個人技。何人かは自分の工夫で使っていますが、業務フローに載っていないので隣の席に移らず、担当が変わると消えます。白書の「個人の生産性向上どまり」の層はここに重なると見ています。
型4は減点。使い方の周知より先に、誤った出力を出したときの責任だけが明文化されている会社です。使えば減点されうるが、使わなければ減点されない。この非対称があると、合理的な社員ほど使いません。ルール整備は必要ですが、禁止事項だけの通達になっていないかは社内でのChatGPT利用ルールの作り方で確認を。
4つとも、原因は社員のやる気ではなく設計側にあります。そしてすべて、配る前に決められた話です。

推進役は誰にするか。専任部署を作らない会社の決め方
上位の推進記事は「推進チームを結成」「CoEを置く」「人事主導で階層別に教育」と書きます。専任を置ける規模なら正しい方法ですが、数十人の会社でなぞると兼務チームができて会議だけが増えます。
推進役に必要な3条件
その業務のやり方を変える決裁ができる(権限がないと提案書だけが増えます)
現場の言葉を持っている(帳票名・工程名・お客様の呼び方をそのまま話せる)
自分で毎日AIを触っている(週1回では詰まりどころが分かりません)
3つを同時に満たす人は、専任部署のない会社ではたいてい経営者本人か、その業務の責任者です。推進役は「AIに詳しい人」ではなく「その業務を変えられる人」から選ぶ。ここを外すと後の工程が止まります。
情報システム部門に置くとツール選定と権限管理は進みますが、業務のやり方を変える決裁がないので使われ方まで届きません。人事に置くと教育は進みますが、利用率が評価と結びついた瞬間に現場は監視と受け取ります。部門が悪いのではなく、権限の型が合っていないだけです。
僕の推奨は、経営者が推進の責任者を兼ね、対象業務ごとにオーナーを1人ずつ立てる形です。推進室を1つ作るより業務3つにオーナー3人のほうが早く動きます。看板から作ると、決裁が付かないまま名前だけが残ります。
経営者と管理職が先に使う。順番を逆にすると推進は止まる
研修後に定着した会社と消えた会社を分けた最大の差は、経営者と管理職が自分で使っていたかどうかです。研修の内容でも、ツールの選定でもありません。
ここでの「使っている」は一度触ったという意味ではなく、自分の意思決定の材料をAIに作らせて、それを見て判断した経験があるかです。この経験があると、部下がAIで作った資料のどこを見ればよいか分かります。無ければ、体裁だけを見て差し戻すことになります。
管理職の抵抗は能力ではなく立場の問題です。自分で検証できないものに承認印を押すのは、管理職として正しく怖い。
推進の順番はこうです。決裁者が自分の判断に使う、次に管理職が自分のレビュー業務に使う、最後に現場の1業務に埋め込む。
全社員一斉研修から始めると、上が使っていない状態で配ることになり型2の完成形です。先に経営層と管理職の少人数で、自社の実データを使った回を1本やる。同じ予算でも定着が変わります(AI研修の選び方ガイド/非エンジニア向けAI研修)。
最初の1業務は人の努力ではなく業務フローに埋め込む
多くの推進記事は「業務フローに組み込みましょう」で終わります。問題は組み込み方です。
人に使わせようとするから、使う人と使わない人に分かれる
人にAIを使わせようとすると、使う・使わないが本人の意志に依存します。忙しい日は使いませんし、異動したら消えます。自社で採っている設計思想は逆です。
人にAIを使わせない。業務フローの中にAIを置いて、人には判断とボタンだけを残す。
こうすると、その業務の担当者は意志と関係なくAIを通った成果物を扱います。推進とは社員のやる気を上げることではなく、AIを通らないと業務が進まない経路を1本作ることです。
自社で毎日動いている2つの実物
1つはSNS運用です。ネタ収集から下書きの用意までをAIが毎朝やり、僕の仕事は公開するかの判断と投稿ボタンだけにしてあります(SNS運用をAIで自動化する分業設計)。もう1つは判断の受け渡しで、複数の自動化が出す判断待ちを毎朝1枚に集め、僕は空欄に採用・却下と書き込むだけです(判断待ちを1枚に集める決定受信箱)。どちらも人間の仕事を一言に縮めています。

埋め込めているかは3つで判定します。入口が既存の業務の流れの中にある(新しく開くツールが増えるなら埋め込めていません)、出力が既存の置き場に出る、人間の仕事が判断1回に縮んでいる。3つが揃った業務が回り始めると、その業務をやる人は全員通るので、使ってくださいと言う必要がなくなります。
関連記事AI導入は何から始める?最短2週間で最初の成果を出す進め方AI導入は何から始めるべきか。答えはツール選びではなく、最初の1業務を選んで2週間でAIに1回完了させることです。自社でAIを毎日回し、顧問として導入支援も行う立場から、1日目から14日目の進め方を解説します。なぜ「プロンプト」ではなく社内の言葉を配るのか
推進の施策として「プロンプト集を配る」がよく出てきますが、僕は配るものが違うと考えています。
世の中のプロンプト集には「議事録を要約してください」と書かれています。正しいのですが自社の業務名ではありません。現場はそれを「◯◯定例の記録」と呼んでいます。変換の手間が1回入るだけで、使われる確率は大きく落ちます。
やるべきなのは社内語への翻訳です。自社の帳票名・工程名・お客様の呼び方・禁止表現を入れて書き直して配る。材料はゼロから作らず、型3の個人技の人が実際に打っている文面を回収して整えます。研修の内製でも、この回収と翻訳が中身になります(AI研修を社内で内製する設計)。
配る単位も「プロンプト集」ではなく業務手順書の中の1行にします。この工程でこの文面を貼る、まで落として初めて社内の言葉として機能します。
使われ方を測る計器を先に置く。何をどこで数えるか
配った後に「使ってる?」と聞いて回るのは点検であって推進ではありません。しかも聞かれた側は使っていると答えます。計器は配る前に置きます。
初期に必要な計器は3つで足ります。
その業務がAIを通った件数(母数が無いと、増えたかも言えません)
人間が判断した回数と差し戻した割合(差し戻し率は品質の代理指標です)
1件あたりの所要時間(前後比較は現場が納得する唯一の数字です)
逆に「全社の利用率」を最初のKPIに置くのは勧めません。使わないと決めた部署の未達が混ざり、数字が意味を失うからです。
僕がブログ運用で使っている計器も専用ツールではなく、1行1イベントの追記型テキストファイルが2本あるだけです。1本目は消費の記帳で、1記事ごとに1行、日付と対象と生成した画像枚数を書き足す。2本目は成果の記帳で、週に1行、公開本数と流入の集計を足す。数値は社外に出しませんが、大事なのは形式のほうです。後から集計できる形で、その場で1行書く。それだけで「使われているか」が推測ではなく記録になります。

計器があると、推進が止まった原因を場所で特定できます。件数が伸びないのは入口、差し戻し率が高いのは翻訳、時間が縮まないのは埋め込みの問題です。
関連記事AIの業務効率化、効果をどう測るか。前後比で判断する計測設計AIの業務効率化の効果は、他社の削減率ではなく自社の前後比で判断するものです。測る計器を先に仕込んでから自動化を載せる順序で自社を運用する僕が、beforeの取り方・測れない業務の扱い・判断までの期間を実運用の台帳ごと解説します。使わない部署はどう扱うか。合意形成の順番
上位の推進記事を読み比べて、いちばん驚いたのがここでした。「使わない部署をどう扱うか」がどこにも書かれていません。全社展開が前提だからだと思います。
顧問で最初にやるのは、全社一律をやめることです。当面AIを使わない部署・業務を先に決めて明示します。一律にすると、向いていない業務を持つ部署の反対が向いている業務の話まで巻き込み、さらに使えない部署の未達が指標を汚すからです。
線引きは手順が毎回ほぼ同じ・成果物がファイルで残る・やり直しがきくの3条件。揃わない業務は当面対象外にします(業務別の当てはめは生成AIの社内活用事例へ)。
もう1つ間違えやすいのが合意形成です。全社説明会を最初に開くと、実物がないので想像で議論することになり、反対意見の収集会になります。僕が使う順番はこうです。
経営者が「やる業務」と「当面やらない業務」を決める
管理職に先に「やらない範囲」を伝える(安心してもらってから始める)
現場には部署単位ではなく業務単位で入る(1業務・1オーナー)
成果が出た業務の実物を、横の部署に見せる(説明会はこの後)
説明会は推進の入口ではなく、成果の共有として置く。順番を変えるだけで同じ内容でも通り方が変わります。導入全体の90日設計はAI導入90日設計にまとめました。

配る前に決めるAI活用の推進設計チェックリスト
ここまでを配る前に決める順に並べます。すでに配ってしまった会社は、1から順に埋め直してください。
AIに詳しい人ではなく、業務のやり方を変える決裁ができ、現場の言葉を持ち、毎日自分で触っている人を選びます。専任部署は作らず、業務ごとにオーナーを立てます。
一度触るのではなく、自分の意思決定の材料をAIに作らせて判断するまでやります。ここが空のまま配ると、成果物が管理職の前で止まります。
手順が毎回ほぼ同じ・成果物がファイルで残る・やり直しがきく。この3条件が揃わない業務は対象外にし、母数からも外します。
入口が既存の流れの中にあり、出力が既存の置き場に出て、人間の仕事が判断1回に縮んでいるか。新しく開くツールが増えるだけなら未達です。
帳票名・工程名・禁止表現を入れて書き直し、業務手順書の1行として配ります。材料はすでに使えている社員の文面から回収します。
AIを通った件数・判断回数と差し戻し率・1件あたりの所要時間を、その場で1行書き足す形で記録します。全社利用率は初期KPIにしません。
1から6は順番にも意味があります。計器が6番目なのは重要度が低いからではなく、6まで決めてから配り始めるからです。配布は7番目の作業になります。
AI活用の推進についてよくある質問
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号・通称AI法)で、2025年6月4日公布、2025年9月1日全面施行です。第七条が「活用事業者の責務」を定め、AI関連技術を事業活動で活用しようとする者は、自ら積極的な活用により事業活動の効率化などに努め、国および地方公共団体の施策に協力するとされています。全4章28条で罰則の章は置かれていません(2026年9月時点・内閣府の公表資料とe-Gov法令検索で確認)。企業規模による適用除外はなく、一方で届出や認証を直接求める法律でもないため、中小企業がすぐに申請すべき手続きはありません。
数十人規模の会社では不要だと考えています。必要なのは部署名ではなく、業務のやり方を変える決裁と、現場の言葉と、日々AIを触っている感覚の3つです。専任を置けないなら、経営者が推進の責任者を兼ね、対象業務ごとにオーナーを立てる形が動きます。看板を先に作ると、決裁が伴わないまま会議だけが増えます。
禁止事項の一覧から書き始めると、使うと減点される構造になります。僕が勧める並びは、①対象にする業務と当面対象にしない業務、②人間が判断する箇所、③入力してよい情報と社外に出さない情報、④うまくいかなかったときの扱い(責任を個人に寄せない宣言)、⑤見直す時期、の5点です。①と④が抜けた方針書が最も多く、その2つが無いと現場は動きません。
「会社全体の定着」では期限が引けないので、僕は「1業務が人の努力なしで回り始めるまで」で測ります。対象を1業務に絞り、計器を先に置いて始めた場合の目安は数週間です。逆に全社一斉に配って全員の利用率を追うと、何カ月経っても定着の判定ができません。期間は範囲の絞り方でほぼ決まります。
研修の追加でもツールの入れ替えでもなく、経営者が自分の判断に1回使うところからです。そのうえで対象を1業務に絞り、業務フローに埋め込みます。呼びかけをやめて、その業務をやると必ずAIを通る経路を1本だけ作る。誰も使わない状態は、社員の姿勢ではなく設計の空欄が原因です。
配る前に決める6項目が埋まっていれば、専任部署がなくても推進は経営者の判断だけで動かせます。自社への当てはめに迷う場合はAI顧問サービスとは何をする仕事かも参考にしてください。
最初の1業務を決めるところでつまずきやすいので、判定用のシートを無料で配布しています。「AIに任せてよい業務の棚卸しワークシート」は、手順が同じ・ファイルで残る・やり直せるの3条件で業務を○×判定し、可逆性と到達範囲の4象限でどこまで自動にしてよいかを決める記入式の資料です。上のチェックリスト3と4に対応します。
出典
他社の利用率・活用方針・組織的な取組状況の数値と、AI法の条文・施行日は、以下の公的資料を2026年9月時点で確認して引用しました。4つの型・推進役の3条件・埋め込みの3条件・計器の置き方は、僕の講師および顧問としての観察と自社運用にもとづく見解であり、統計ではありません。
総務省「令和8年版 情報通信白書」企業等におけるAI利用の進展(2026年7月) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121110.html
総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月) https://www.soumu.go.jp/main_content/001082851.pdf
内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_act/ai_act.html
e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号) https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000053
衆議院「同法律案 本文」(第七条 活用事業者の責務) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21709029.htm
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